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掲載|KANKURO UESHIMA COLLECTION

植島幹九郎氏のコレクションとして、作品をご紹介いただきました。

 

INSTAGRAM KankuroUeshima collection ページより引用

https://www.instagram.com/p/Chdic_aP8vI/?hl=ja

 

Artist: 松村咲希 / MATSUMURA Saki
Title: combination-river flow 16
Year: 2022
Medium: acrylic, spray-paint on canvas, mounted on wood panel
Dimensions: 90.9 x 72.7 cm (35 3/4 x 28 5/8)
Acquired from Isetan Art Gallery, 2022

Collection #146 KANKURO UESHIMA COLLECTION Kitasando 8F

大きな波状で立体的に形成された隆起に、黄色〜オレンジ〜黄緑のスプレーがグラデーションを成している。大きく抜かれた白場が、画面に激しい断絶を作り出している。描画の技法がさまざまに異なる境界線が意図的に強く分断されているのもよくみて取れる。そのエリアごとの表情の差異が大きければ大きいほど、画面の鮮烈な印象が増していく。絵画の中で本らいある程度整合性をもって組み立てておかれるべき(そうでなくては絵画構成が破綻する)構図や空間性がものの見事に切り崩され、ネジ切れた風景の断片が折り重なっている。主に視覚だが、松村の作品を前にすると、錯視とはまた異なる様相で知覚が誤作動を起こしそうになる。存外、空間認識は容易に崩されてしまうのだという、人間の脆弱性に不安感すら覚える、強烈な作品である。

松村咲希 / MATSUMURA Saki
1993年長野県生まれ。2017年京都造形芸術大学芸術研究科修士課程芸術専攻ペインティング領域修了。さまざまな技法を同一平面上に混在させるが、混ぜ合わせるのではなくむしろその差異を明らかにすることで、違和感を生じさせる。作家のステートメントには、絵画をはじめとする平面作品に「現実とのズレ」を再認識させる性質がある、と述べられている。絵画という形態は、それが平面である限り三次元の現実空間を表現するにはどうしても無理が生じる。その二次元と三次元の決定的差異を補うためにさまざまな技法と表現が生み出され続けたことで絵画の写実性が、あるいはそれらを否定・超克しようとする形で絵画の抽象性が、その両者の発展の成果として今日の絵画は成立している。松村の作品はその原点に再び立ち返るものだ。松村の作品では、異なる技法同士がレイヤーとして重なることはあれど、視覚的には境界線が生じている。それも曖昧な境界ではなく、極めて克明に意図された境界が表れている。すなわち、鑑賞者に対して絵画の中での空間認識を意図的にズレさせることを企図するという意味になる。松村は作品上の境界にある「ズレ」を受容した上で新たに問い直すのである。絵画内の空間認識がズレるならば、現実空間の認識もまた容易にズレるのではないか?トーキョーワンダーシード2017入選、「JALX ART+WINE PROGRAM」ボージョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォーラベル作家(2019年)など。